帝京大学CB症例報告
1月25日18:00より 帝京大学付属病院 5階病理カンファランス室
3症例の臨床と画像、病理を中心に討議が行われた。1症例は頚部リンパ節腫瘤の原発巣不明癌、他の2症例は胸水貯留症例。
症例① 頚部に大きな腫瘤を形成し、縦隔、腹部傍大動脈周囲リンパ節にも転移巣が広がっている。この大きな頚部腫瘤は最初の他院のCTで1スライスのみであるが甲状腺皮膜が鳥の嘴状のいわゆるbeak signを呈しており、画像的に甲状腺由来で外側に大きく発育した腫瘍として矛盾しないと考えた。肝臓癌が有茎性で腹腔内に発育したり、大きな上腹部腫瘍が有茎性子宮筋腫であったりと、原発臓器から分離されているように見えることは、自験例でもまた画像のカンファランスでも時々提示されることがある。このような原発臓器の皮膜から外側に発育する症例を、初めて経験した時はとても信じられないという思いをした。本症例は、病理学的にも免染TTF-1が陽性の低分化癌で、甲状腺癌として矛盾はないと考えられた。
症例②は胸部画像は大量の胸水貯留の症例であるが、C型肝炎に合併したHCCに対して何度もRFAや肝切除等の治療が行われた既往があり、胸部CTで胸膜に接して良好に造影される(されすぎ?!)のポリープ状の小結節が多発している。胸腔鏡下の生検材料からHCCの治療後の播種の可能性に関して討議されたが、病理の免染での証明に問題が残った。
症例③大量の右側胸水症例で、胸膜肥厚と左胸膜の石灰化あり、中皮腫か非結核性の胸膜炎の鑑別が問題になった症例である。フィブリン析出著明であるがADA20.6で好中球の浸潤はなくと細菌性胸膜炎とも思えなかった。病理学的には線維形成型中皮腫の可能性も疑われたが、確定診断にはいたっていない。
今回のcancer boardでは免疫染色に臨床医があまりに期待する傾向が強すぎることに自戒するべき・・・という印象でした。自分の無知からですが、サイトケラチン:CK7とCK20の(+)、(-)の4つの組み合わせパターンによる原発巣の推定は興味深いと考えられましたが、1995年頃から盛んに行われた手法で新しい考え方ではないそうですが、原発巣を絞るひとつの良い試みではあります。しかしながら、例外となる症例も沢山ありさまざまなマーカーの組み合わせが必要なようです。次々と新しいマーカーが開発されるのは素晴らしいことですが、臨床医にとってはなかなかついてゆくのは大変です。
中皮腫の免染の主な抗体も沢山あり、いつも石綿環境暴露の被害認定委員会で聞いていて知らない間に抗体の名前は頭にこびりついて来ているのですが・・・・・なかなか全部の使い道を覚えることは困難です。中皮腫は上皮型と肉腫型によりマーカーの組み合わせも微妙にことなり、腹腔発生の中皮腫と卵巣悪性腫瘍との免染による鑑別が問題となる。また陽性マーカーだけではダメで必ず陰性マーカーも必ず組み合わせる必要性など、今後激増するであろう中皮腫のマーカーに関しては、被害申請のときには必要となるため、これからの臨床医には必須の知識である。代表的な陽性マーカーとしては上皮型中皮腫はcalretinin, CK5/6, WT-1, D2-40、肉腫型中皮腫のマーカーとしてAE1/AE3,CAM5.2を、陰性マーカーとしては肺腺癌との鑑別にCEA,TTF-1,卵巣腫瘍との鑑別にER,PgR,Moc31,BerEP-4などが代表的であろうが、中皮腫に関しては決定的なマーカーはいまだ存在しないということも知っておく必要がある。そして電子顕微鏡による中皮細胞の形態観察も反応性中皮細胞と腫瘍性中皮細胞の鑑別に極めて重要となる。また生検の組織標本がなくても、中皮腫診断を得意とする病理医や細胞診スクリーナーに依頼すれば、胸水穿刺による細胞診所見からも正確な診断可能である。
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