中皮腫の耳学問
本日の環境庁石綿会議の約50の中皮腫症例は、比較的典型的な画像例が多く、早めに終了することができた。その中で大変に画像所見が興味深かった1症例を報告したい。不規則な斑状の石灰化が、層状に瓦礫の石を積むように肺尖から肺底区まで不整に進展した肉腫型中皮腫の1例である。病理学的には石灰化ではなく骨化・骨形成とのことです。稀ながら骨形成性の中皮腫が知られており、今までにも数例の経験はあったが・・・今回のような広範囲にびまん性に広がる骨形成性の中皮腫を見たのは初めてである。病理学的には骨肉腫との鑑別がしばしば困難で、画像所見で肋骨等の骨組織と非連続であることを確認することも重要になる。subtypeは全て肉腫型で、上皮型や二相型では見られない。この興味深い症例のCT写真をお見せすることが出来なくて残念・・・。
1月さいたま赤十字病院呼吸器カンファ症例報告
1月16日水曜日 さいたま赤十字病院カンファランス室 19:00~
5症例が提示された。簡単に報告する。
症例① 25歳 男性 検診発見症例 右肺尖に3cm程度の腫瘤影とブラ形成あり。CTにて肺尖部ブラと腫瘤内に空洞形成あり。気道撒布影は見られないが散在する小斑状影はある。気管支鏡で抗酸菌は証明されたが、結核とMACはPCRで陰性。まだ抗酸菌のタイプは検査中で、同定されていない。
症例② 60歳代 男性 検診発見の右肺の腺癌。HRCT所見のすりガラスの分布や病変辺縁部の小結節、葉間の肥厚部の形態等がやや非定型的と思われた。
症例③ 70歳代 女性 MAC症で経過観察中に突然の呼吸苦出現する。胸部写真では胸膜癒着と右肺門やや目立つ程度。CTでは著明な右心系・主肺動脈の拡張あり。単純CTでも高吸収域の肺動脈内血栓を指摘可能な症例であった。突然の呼吸苦では画像に著変ない時はまずPTEを疑うことが強調された。下肢静脈内にも血栓が証明された。
症例④50歳代 男性 検診発見 左下肺野に索状影の集簇あり。AVM等による異常血管影か気管支内粘液栓を疑う所見である。CTでは両肺3箇所に多発する粘液栓g認められ、粘液栓の一部は著明な高吸収を呈しており、定型的なABPAの画像と診断可能である。末梢血の好酸球数12%、BAL液中も好酸球が著増しており、ABPAとし矛盾しないが、糸状菌含めアスペル等の真菌は認められていない。また本症にみられる粘液栓の高吸収は真菌のアミノ酸代謝により生じるマンガン・鉄等によることが述べられた。これはMRIのT2WIで副鼻腔のアスペル病変が無信号化する原因と同一と思われる。検診で発見されるABPAはめずらしいが、問診するとステロイド剤の吸入療法歴はある。
症例⑤ 60歳代 男性 冠状動脈バイパス術後の退院前に右胸水やや増量し穿刺排液後に進行する右肺Consolidationと両側胸水の増量あり。肺炎等の治療に反応なくステロイドパルス療法施行し著明な改善を認めた症例。原因不明の急性呼吸不全。
1月帝京大学呼吸器疾患Cancer board報告
1月9日水曜日 19:00~ 病理検鏡室にて2症例の検討が行われた。ともに胸部単純写真が興味深い症例であった。
症例① 60歳代 女性 胸部単純では頸軟部に左右差あり、右胸鎖乳突筋影の消失と右肺尖部の淡い透過性の低下域から前頚部の軟部腫瘍の存在を疑った。しかしCTでは、胸壁背側の肋間に存在する内部が低吸収の腫瘍が描出され、MRの所見は造影にて多房性の壁が比較的厚く強く造影されていた。切除され軟部の粘液腫Myxomaと診断されたが、脱灰処理を行っているために、詳細な病理診断は難しいという点も述べられた。石灰化や骨化がCTで認められない組織であることが術前に分かっていれば、切除標本の脱灰処理は省いてもよいのではないかと思われる。その後、頸部腫瘤を自覚するようになり生検にてfolicular lymphomaと診断された。その際の胸部CTで第11胸椎椎体前面に巻きつくように存在する軟部影あり。PETでは頸部とこの椎体部のみに集積が認められた。これがlymphomaかmyxomaの転移かの判断が問題となったが、MR,PETの画像所見からもmyxomaの可能性は否定的と考えられた。また濾胞性リンパ腫では、椎体部病変の生検よりも骨髄生検によるStagingを優先することの重要性が強調された。
症例② 40歳代 男性 30歳代で右下葉の腺癌StageⅠAの切除歴あり。その際の胸部写真では右肺底区に8mm大の一見すると硬化性結節か肋骨の骨島のように判断してしまう様な境界明瞭な結節影であるが、CPangleに淡い浸潤影を伴っている。切除後の評価では、EGFR陰性、ALK陽性の腺癌で、CPangleに存在した淡い陰影は腫瘍による肺動脈閉塞に伴う梗塞病巣と判断された。術後4年目に、縦隔リンパ節転移著明にてザーコリン(クリゾチニブ)投与開始する。経過は良好であったが呼吸苦出現し造影CTにて肺動脈血栓塞栓症と診断された。下肢静脈内にも血栓あり、ザーコリンの副作用の可能性や今後の血栓の治療の継続と抗がん剤の選択等に付き議論された。ALK陽性肺癌の抗がん剤として、アリムタに有効性があるとする報告が紹介された。
今年も宜しくお願いいたします。
大学を退職し㈱MS.CHESTなる遠隔読影の会社を立ち上げてから・・・早いもので今年で5年目を向かえます。遠隔読影の仕事もおかげさまで、少しづつですが順調に増えてきて、現在は6名の先生方にお手伝いしていだだいております。
また毎月1回の定期的に若手先生方ともに勉強する機会も、品川カンファ、神田塾、さいたま赤十字呼吸器カンファ、帝京大学キャンサーボードに加え、4月からは東邦大学大橋病院呼吸器カンファにも参加させていただく予定です。その他にも聖路加病院でのChest imaging folumや大阪びまん肺研究会も参加させていただいております。そして、これらの会で知りえた知識を出来るだけこのHPで報告させていただきたいと考えておりますので、皆様のご協力のほど、宜しくお願い申し上げます。
12月さいたま赤十字呼吸器カンファ症例レポート
今月は9症例の画像を中心とした症例討議が行われた。簡単に症例の解説を試みる。
症例① 20歳 女性 高熱 何種類かの抗生剤(フロモッコス、クラビットなど)が2週ほど投与されていたが反応せず、胸部写真撮影し異常影で紹介。胸部写真は右上葉の小葉間裂できれいに境されたConsolidationとGGOで典型的な肺炎像。CTも同様の所見で気道変化は目立たない。血清学的にマイコプラズマ肺炎と診断されたが、抗生剤に対して耐性を有するマイコプラズマ肺炎が増えているので注意!!画像はこれでマイコプラズマか?!というほどに気道・細気管支病変がなく肺胞性肺炎のパターンで画像からの細菌性肺炎との鑑別は困難であった。このようなair space consolidationを来たすマイコプラズマ肺炎は成人には稀で、若年者層ではしばしば見られる。細胞性免疫の関与によりCT画像が異なってくると考えられている。
症例②60歳代 男性 外傷性骨折で入院時の胸部写真で異常指摘。画像は典型的は左上葉無気肺像であるが、無症状で偶然に発見が珍しい、左上葉気管支発生の扁平上皮癌。N0でありsleeve resectionの可能性に関して検討された。
症例③ 60歳代 男性 健診で見つかった右肺尖の浸潤性陰影。単純写真からも活動性TBと思われるが、他院で抗生剤治療が4週間施されている。改善ないため紹介来院し胸部CT施行。右S1,2に数個の結節と周囲に散在する細気管支粒状影がびっしりあり。画像からは鑑別必要としないほど典型的な結核症・抗酸菌感染と診断可能と思われたが、気管支鏡検査で結核菌を証明している。
症例④ 60歳代 女性 慢性間質性肺炎で少量持続副腎皮質ホルモン剤服薬中の患者。毎月胸部写真を撮影している。右下肺野内側に結節影現れる。「見直し陽性例」肺癌症例、NSEやや高値で未分化癌と思われる。胸部CTでは気腫性線維化で喫煙者肺に一致する。このタイプの線維化は肺癌の合併が多いので注意を要するが・・・毎月1回の撮影は頻度が多すぎて却って観察注意がおろそかになる可能性が指摘された。半年ほど前のCTでは気腫性嚢胞壁に数ミリの点状影ありこれが大きくなったものと推察された。
症例⑤ 60歳代 女性 健診発見の胸部異常影。 典型的な気管支拡張伴う中葉無気肺の中葉症候群に抗酸菌症の合併したもの。胸部CTでは中葉外にも細気管支病変・小葉中心性肉芽腫や空洞も広がっていたが無症状であった症例。
症例⑥ 70歳代 女性 健診発見無症状 心拡大と左肺門の軽度拡張傾向程度で有意な所見は不明であるが、下行大動脈の肺門レベルで走行が追えない部分あり。胸部CTでは上中縦隔に累々とリンパ節腫大あり。左下葉S6の部分的な無気肺も見られた。US観察下の気管支鏡生検でリンパ節と無気肺部の両方からサルコイドーシスの肉芽腫として矛盾しない組織が得られた。サルコのリンパ節腫大では無気肺を来たすことは稀。サルコのリンパ節は軟らかいために、気管支閉塞は起りにくいといわれている。この症例の無気肺がサルコによるものとは、たとえ組織でサルコイド肉芽腫が証明されても、考えにくいと思われる。
症例⑦ 70歳代 男性 ワーファリン服薬中の患者。喀血を主訴に来院。右下肺野に境界明瞭な空洞伴う腫瘤影あり。内部にはニボーを形成している。経過で内部は均一な充実性に見える腫瘤に変化。胸部CTでは小葉間裂に存在して臨牀情報および経過と画像から葉間血腫と思われた。ほぼ同一の画像所見を呈した自験例あり、そちらは喀血はないが、新たに出現した結節影のため、腫瘍を疑い切除し小葉間裂に存在する血腫と診断した。
症例⑧ 70歳代 男性 大量持続性喀血 胸部単純は左上肺野外側にGGOの広がりあり。他にも淡い斑状影が疑われる。胸部CTでは全肺野に散在するGGOと一部中心に索状影や不整小結節を伴っている。画像からは血管肉腫の転移か血管炎を疑う、診察により右頸部に腫瘤あり、生検にて易出血性であったが何らかの悪性軟部腫瘍:肉腫として矛盾しない組織が得られた。通常は頭皮の血管肉腫からの転移が多い。皮膚の血管肉腫転移巣の画像は肺野結節と嚢胞形成に周囲を取り巻くすりガラス影の広ろがりが特徴的で、CT画像から診断可能な疾患である。本症例は喀血のコントロール困難で死亡している。剖検がなされ最終病理診断を待っている。
症例⑨ 60歳代 女性 結核の治療歴あり。胸部単純は典型的な上葉無気肺の画像であるが、慢性に経過し陳旧性の瘢痕性無気肺とされている。発熱・WBC増加等の炎症症状出現し、胸部写真では右上葉無気肺部の増大あり。気管支鏡検査で上葉気管支より膿性痰が多量流出するのが観察され、細菌感染を来たしたものと考え、陳旧性無気肺に合併した肺膿瘍と診断された。
中皮腫診断の耳学問
石綿被害救済に参加していると勉強になることが多い・・・。
前回の会議では腎臓癌の胸膜転移と中皮腫の鑑別に関する症例の話題が検討されました。私は腎臓癌が肺に転移することなしに胸膜に多発転移する症例など・・・全く考えもしなかったが、この両者の鑑別は病理医にとって、鑑別に大変悩ましいことで知られているそうです。まれな組織型のタイプとしてclear cell型の中皮腫は良く知られた事実だそうで、会議に同席した放射線科の先生(旭川医大の高橋康二先生)も、この両者の鑑別は画像診断医にとっても難しいと同意されておられ、知らないのは私だけで・・・少し恥ずかしい思いをいたしました。
11月さいたま赤十字呼吸器カンファ症例
長い間、HP更新せず、カンファランスの症例報告をサボっておりました。何人かの先生からお叱りをいただき恐縮しております。今後は出来るだけサボらないように続けてゆく所存ですのでお許しください。先月のさいたま赤十字呼吸器の症例を解説いたします。
症例① 70歳代の左大量胸水貯留の医師。体調不良で疲れ易いと・・・。左上肺野にも軽い浸潤影り、胸部CTで観察すると抗酸菌特有の気道撒布病巣あり、画像からも結核と診断可能である。
症例② 50歳代女性 胸部CRでは左第一肋骨端の肋軟骨化骨部に重なる「かくれんぼ肺癌」症例。丁度、肋軟骨部の石灰化に腫瘍が重なると左右差のみで指摘可能であるが、時に生理的にもこの部の石灰化は左右差きたすこともあり、なかなか判断は困難なこともある。この症例も2年ほど前から見過ごされているが、このような症例は安易に「見落とし」とは表現せずに「見直し陽性」症例と表現するべきと思われる。
症例③ GISTで化学療法加療中の70歳代女性。右肺尖部の大きな不整な壁を有する空洞症例。1年前の胸部CRでは薄い壁のブラのみであることから、慢性壊死性アスペルギルス症の画像診断が可能な症例。
症例④ 24歳女性 胸痛と強度の咳あり。特発性の縦隔気腫の典型例。頸部まで気腫広がり触診で皮下気腫が診断可能な症例。
症例⑤ 30歳代男性 肺内に転移性腫瘍と思われる多発結節がびまん性に散在し、左肺門にも大きな腫瘤影を認める。縦隔腫瘍の肺転移から悪性胚細胞性腫瘍と考えられた。精上皮腫、非精上皮腫性胚細胞腫ともに比較的若年の男子に好発する。卵黄嚢腫瘍yolk sac tumorでは血清のAFP高値が94%で認め、β-hCG高値であれば絨毛癌を疑う。胎児性癌では両者の上昇を見ることが多い。提示された症例は生検で、卵黄嚢腫瘍と診断された。
胚細胞腫の覚え方「SECTE」seminoma,embryonal cell carcinoma,choriocarcinoma,teratoma,endoderumal sinus tumor(york sac tumor)
症例⑥ 75歳女性 2.3週前からの呼吸苦出現。両肺に索状の浸潤影出現する。胸部CTはびまん性のGGOやConsolidationの非特異的な陰影。薬剤性肺炎を否定するため問診するとオウゴンを含有する漢方薬の服薬開始との関連が疑われ、薬剤中止のみで陰影は消失した。慢性肝炎治療等の漢方薬による薬剤性肺炎も最近話題になることが多く、漢方だから副作用が無いなどと考えないようにしたい。また、次々と開発され発売される新薬を含め各々の薬品の副作用に関しての充分な知識は極め重要である。
症例⑦ 35歳男性 発熱あり。胸部CRでは右下肺野の濃厚なConsolidationあり、また左心陰影に重なる陰影も多少伴っている。胸部CRからは下葉の肺炎を疑うが、心拡大と胸水貯留も認める。CTではConsolidationは非区域性で末梢のsparingあり、この陰影の分布と両側胸水貯留から肺水腫による陰影と考えられた。精査により拡張型心筋症:DCMによる肺水腫と診断された。発熱と単純写真上のConsolidationの右下葉分布から、肺炎との鑑別に苦慮した症例であるが、CT所見は比較的定型的な肺水腫の画像と考えた。
症例⑧69歳男性。Adult Still病で加療中に咳嗽出現する。胸部CRでは散在する斑状影程度であまりはっきりした陰影ではないが胸部CTは多発する空洞、限局するGGO、きれいなreversed halo signを認める。血管肉腫の転移や侵襲性アスペルギルスを疑う画像である。しかしreversed halo signを呈する日和見感染としては、アスペルギルスよりもムコールによる肺感染でより多くみられると最近は報告されていることがカンファランスで強調された。また気管支鏡直視下でも気管支粘膜に限局的潰瘍病変が見られた。最終診断は気管支鏡生検にてアスペルギルスが証明された。気管支鏡観察で気道粘膜病変を観察できたアスペルの報告は見たことあるが、ムコールではこのような中心気道に粘膜潰瘍を伴うことはあまりなさそうですが文献的にはいかがでしょうか?
石綿関連の耳学問
①極めてまれな中皮腫の組織型としてsmall cell mesothelioma というものがある。肺癌の小細胞癌と病理でも鑑別が問題となる可能性あり。
②精索より発生する中皮腫は比較的まれであるがそのほとんどの組織型は上皮型であり、その他の組織型の場合は他の腫瘍の可能性も考慮する必要あり。
③中皮腫が胸膜から肺内に進展することはまれにあり、その際、肺胞上皮癌に類似した進展形式を呈するため病理学的に鑑別が難しいこともある。
④well differentiated papillary mesothelioma を悪性腫瘍として石綿暴露の救済疾患として取り扱うべきか否か、また石綿暴露と関連するか否かは、いまだ問題点である。
⑤MFH: malignant fibrous histiocytoma は現在は undifferentiated sarcomaの病名に変わりつつある。
胸部写真の読み方と楽しみ方の改訂
2003年に秀潤社から出版した「胸部写真の読み方と楽しみ方」の改訂版の最終原稿が、年末に私の元に査読のために送られてまいりました。今回の改訂版は多くの友人達やカンファランス等でご指導いただいている先生方に御願いし、分担執筆とさせていただきました。改訂版の内容は大変に濃く充実し、製本後に通読することを自分でも今から大変に楽しみにしております。
思い出すに・・「臨床画像」誌に2年近く連載し、連載終了後はまとめ教科書として出版していただけるというメディカルビュー社の約束でありながら、結局は編集会議に担当者が企画書を数回提出するもボツとなり、何度かの話し合いのすえ・・・「出版社としては、売れそうもない本は出せません!内容があまりにマニアック過ぎ、また類似した本の出版社から訴訟されると負ける恐れもあり・・・」とのメディカルビュー編集長のお言葉をいただき、かなり気分的に落ち込んでしまいましたが・・・・。最終的には秀潤社の原田編集長のご好意により出版することが出来、また思った以上の売り上げもあり、もちろん訴訟されるようなこともなく、何とか編集長のご好意に報いることも出来ました。これらの出来事が、つい昨日のような気もいたしますが、あれからもう10年近くも経ってしまったのですね。おかげ様で、姉妹版とも言える「Dr.Satoの胸部写真の楽しみ方」のDVDもケアーネット社から発売になり、こちらも研修医制度の改革もあり順調に売り上げを伸ばしたようでした。
今年の放射線学会総会までには何とか製本が間に合って、総会会場で展示できたら幸いと考えておりますので、今後とも宜しく御願いもうしあげます。
第25回胸部放射線研究会報告
10月21日に下関で開催された胸部放射線研究会では44演題の報告がなされた。多くの貴重かつ稀有な症例が提示された。そのなかで臨床面から印象的であった症例に関して解説したい。
①演題17 潰瘍性大腸炎の治療中に出現した胸壁腫瘤。胸囲結核が疑われ切除がなされたが最終診断は壊疽性膿皮症であった。潰瘍性大腸炎の約20%に合併し、外科的処置は禁忌とされている皮膚疾患で、胸壁発生はまれであるとのことである。
②演題28 多発小結節の52歳女性。喫煙1本/日!!! CT画像は小嚢胞と外側3/1肺野に散在する崩れかけたような小結節や淡い小結節から典型的なLCHの画像といえるが、TBLBの所見から提示施設の病理医は過敏性肺臓炎と・・・。研究会の病理コメンテイターの福岡先生からLCHの診断で問題なしと画像を裏付けるご意見あり。しかし日に1本の喫煙よりは家族内の重喫煙者の存在が原因と考えられる。
③演題29と演題35はErdheim-Chester病 画像はcoated aorta sign と腎周囲の軟部影より典型像であるが、演題35は肺はLCHで肩の軟部腫瘤はE-C病とのことで、免染のCD1aが両者の鑑別の決めてとなる。しかしこれらの本体はまだまだ研究が進行中で将来はどのように分類されてくるのか興味深い。
④演題37 PLCDD (Pulmonary light chain deposition disease)の1例は私の教科書の内分泌疾患と胸部の項の演習問題に使用した症例と同一疾患と思われる。本報告例はシェーグレン症候群の合併を疑うも確定診断には至っていないそうですが・・・。肺の多発嚢胞と多発結節で病理的にアミロイドーシスと類似するがコンゴーレッド等に染まらない、最終診断にはκ-chain,λ-chainの染色や電顕の検討が必要な疾患で、和名は単クローン性免疫グロブリン沈着症と言うそうです。覚え難いので1976年に最初に報告したRandallの名前をいただきRandall症候群としたらと思ったしだいです。
他にも末端肥大症と大腸癌におけるIGF-1受容体の強発現と小型腺癌のPET集積の関連に関する考察など多数の興味深い報告があり、大変勉強になった研究会でした。
第517回呼吸器臨床談話会報告
呼吸器談話会のミニレクチャー当番であり、「胸部疾患領域における人名の付く疾患の画像所見」に関する講演を行ってきた。人名の付く疾患のリストは教科書の索引や聖マリ医大の栗原先生の助言でまとめてみました。日本画像医学会で講演しましたがその後あまり話す機会がないのでHPに公開いたします。興味ある方は上の「人名の・・・HP」をクリックして開いて何か勉強の参考にしていただけたら幸いです。
当日の提示された2例に関し簡単に解説する。
症例①69歳男性 39度台の発熱と呼吸苦あり。PaO253mmHgと著明な低酸素あり。胸部写真は肺野には異常ないが、胃泡の内側シフトあり脾腫の存在が示唆される。胸部CTも吸気・呼気が行われているが、細気管支病変等は否定的で特に呼吸苦の原因となる異常はなし。CTではLC等の所見ないが、著明な脾腫の存在が明らかである。肺野に換気障害等の異常を認めない低酸素血症より、慢性肺動脈血栓塞栓症、PTTMまたはIVLが鑑別にあがる。そのなかで脾腫を伴なうものはIVLのみであろう。IVLの肺病変はびまん性の淡いすりガス陰影の目立つものが報告されているが、早期であれば当然CTでは異常を認めない症例のほうが多いのは当然と考える。 勉強になった点は、皮膚生検はランダム生検でOKで、皮膚病変の無いところでも陽性になる!胸部CTがnegativeでもGaシンチやPETでは陽性の報告例はあること。肺病変が主体の症例は5%程度で、皮疹、認知症状・意識障害での発症が60~70%と多い。治療はR-CHOPが大変に有効である。
症例②70歳 女性 労作時息切れ 膿性痰 RAにて治療中の患者。RAに伴なう肺線維化と気管支拡張症あり。著明な縦隔肺門リンパ節腫大を単純写真およびCTで認める。MTX使用中で総投与量は3418mg。生検にてMTXassociated LPDと診断された。EBウイルス感染示唆するEB-ERは陽性であった。MTXの中止で、リンパ節腫大は自然退縮した。diffuse larage Bcell lymphomaが最多でHodgkinや LPI等の組織が多いとされるが、会場からも「病理ではリンパ腫といっても・・・本当は腫瘍性変化ではないのでは・・・?」という疑問の声も強かったです。
129回びまん肺疾患研究会報告
5月28日に大阪で行われたびまん肺疾患研究会に画像司会で参加してきたので提示された症例の画像を中心に簡単に報告解説する。
症例①両肺に多発性空洞性腫瘤を来たした75歳の男性。CT所見から下肺野優位の多発性の空洞性腫瘤で気腫性変化も目立っていた。Gaシンチで鼻腔と両側腎にuptakeもあり比較的典型的なWegener肉芽腫の症例で特に問題ないと考えた。初診時にアスペルの抗体・抗原(+)であった。Wegener肉芽腫としての治療により病変は著明に改善したが、80病日に左上肺野に浸潤影出現し、BAL液中にAspergilus nigerを証明し、抗真菌剤の治療となる。治療前のアスペルギルス抗体・抗原陽性の意義が強調された。
症例②びまん性すりガラス陰影を呈している長期鳥飼育歴有する67歳女性。この症例もCT画像からは鳥飼病による過敏性肺臓炎として矛盾は無いと考えた。特に下肺野の地図状のすりガラスと影と正常小葉のモザイクパターンに加え、正常小葉に見える部の小葉中心に点状陰影等は特徴的と思われた。NSIP,PCP等が鑑別にあげられるが臨床情報からは診断に全く矛盾はない。ANCAの上昇が見られたが、慢性・亜急性、または亜慢性過敏性肺臓炎抗原吸入での反応性ANCAの上昇はみられることがあるとのことでした。
症例③関節痛・発熱主訴の33歳、女性。CT所見は、上縦隔リンパ節腫大と胸膜下の斑状影や線状影からサルコイドが疑われた。両側下肢の間接にGaの取り込みあり。臨床的には典型的なレフグレン症候群と思われた。本邦ではまれなサルコイドの表現型であるが、北欧では頻度が高い。
症例④溶接工に見られたびまん性粒状影をていした72歳男性。単純で分かるびまん性陰影で一見サルコイドか粟粒結核を疑うがVATSでは溶接工肺の所見のみで粒状陰影の原因は分からなかった。下痢等の感染症状で初診しており、何らかのウイルス感染が粟粒影の原因であった可能性が指摘された。以前にさいたま赤十字のカンファでサリドマイド使用による粟粒影パターンの薬剤性肺炎の症例を思いださせる。その他、サルコであった可能性やリンパ増殖性疾患、hot tub lungの可能性などいろいろの意見が会場で聞かれた。
症例⑤びまん性肺疾患の急性増悪にて死亡した62歳男性。石綿肺に伴なう線維化に肺癌とサルコイドーシスが合併したと考えられた症例でした。
さいたま赤十字病院呼吸器カンファランス報告
さいたま赤十字病院において定例の呼吸器カンファランスが開催された。今回は若干参加者が少なかったが、いつもながらの熱心な討議がなされた。
症例① 45歳 男性 胸単では、極めて軽微ながらほぼ全肺野の間質性陰影の広がりを認めた。とくに右上葉血管影の不鮮明化が目立ち、微小粒状影の存在が疑われ、右肺門部の軽度リンパ節腫大も示唆された。胸部CTも基本的に同様の所見であったが、KL-6が7693と極めて高値であり、KL-6がこれだけ著明に上昇するのは1.PAP:肺胞蛋白症、2.HP:過敏性肺臓炎3.PCP:ニュウモシスチス肺炎4.悪性腫瘍の4つに鑑別が絞れる重要な所見という意見があり、画像からもPCPとして矛盾はないと考えられた。血液検査にてHIV陽性でAIDSに合併したPCPと診断され、他院へ紹介となった。しかし、CT所見で全肺野のびまん性すりガラス陰影に加え、右肺尖の微細粒状陰影が目立つ点と所属リンパ節の軽度腫大よりPCPに加え肺結核の合併の可能性も否定できないという意見もあり、結局最終診断は紹介病院からの精査結果待ちとなった。また、AIDS患者に合併するサイトメガロ感染でも粒状陰影が目立つ症例があるという意見も追加された。
症例② 59歳 男性 喘息患者。右上葉に広がる索状影、結節様陰影、浸潤影あり。CT所見からはEP:好酸球性肺炎として矛盾なく、BAL液中の好酸球も48%と著増していた。Churg-Strauss症候群やANCA関連血管炎との鑑別や、喘息に合併する胸部異常などの臨床的な問題に関して討議がなされた。
症例③ 47歳 男性 膵臓癌の治療中の患者で、胸水と肺尖部の陳旧性結核病巣のみであったが、治療経過で右肺に浸潤影出現したが、その時には胸水は自然に消退していた。膵臓癌の肺転移は肺胞上皮癌と類似し炎症所見のような画像を呈することがり、この浸潤影も臨床情報から膵癌の転移を疑ったが、喀痰検査でGaffky8号と大量の結核菌が証明された。もう一度CT画像を検討すると一部に空洞形成を認めたが、二ボーを伴い、TBを積極的に画像所見から疑うことは困難な症例と思われた。また、自然に消退する胸水として、中皮腫が良く知られるが結核でも時に無治療で消失する例もあることがあり、注意が必要と考えられた。また本例のように陳旧性結核病巣の存在する担癌患者の化学療法中では結核の再燃の危険性を常に考慮することを忘れてはいけないことがとくに強調された。
症例④ 57歳 男性 数年前より胸部異常陰影を検診で指摘されていたが、精査は受けていない。今回、陰影の増加あり、胸部CTと気管支鏡が行われPAP肺胞蛋白症と診断された。胸部CT画像は定型的なPAPの所見の一つである、胸膜下に広がる帯状のすりガラス陰影が見られた。
症例⑤ 肩甲骨の外骨腫が肺野の結節影様にみられた症例。胸部CTが依頼され、3D処理にて外骨腫が肋骨と関節形成しているのがきれいに描出されていた。学生の健康診断の胸部間接撮影で時々見つけるが、肋骨の偽病変と異なり単純写真のみからでは診断は難しい。
症例⑥ 56歳 男性 以前にCPAで救急入院し救命された既往ある重喫煙者。呼吸音より中枢気道狭窄疑いCTが撮影され、声門部の強度の軟部影による狭窄を認めたが原因精査中で、前回入院時の挿管操作との関連なども考えられた。
帝京大学CB報告
今回は2症例の討議がなされた。
症例① 59歳 男性 胸部異常陰影
末梢肺野の高分化腺癌と巨大な縦隔リンパ節単発転移が疑われた症例である。胸部単純写真からの、病変の指摘は困難な症例である。右肺底区の結節影は正面では横隔膜下に隠れ、側面で肺側胸膜の限局的肥厚増様に見える。縦隔の大きな腫瘤も、正面像からは僅かに右肺門部の突出として認められる。以前の腹部CT画像の再処理にて右肺底区結節は増大し、周辺すりガラス影等より高分化型腺癌と思われるが、縦隔の大きな単発性腫瘤を単にリンパ節転移とすることは、臨床的にも画像的にも考えにくい。同部に対しTBACが施行されclassⅤ低分化非小細胞癌の診断がなされた。免染からはTTF-1(-), AE1/AE3(+)でリンパ腫系のマーカーもすべて陰性であった。肺底区腺癌からの転移は否定的であり、原発不明癌で、画像からはキャッスルマンリンパ腫や食道原発GISTの可能性など疑われたが、病理からは上皮系腫瘍が疑われ否定的であった。縦隔側胸膜から限局性中皮腫が発生すると有茎性で境界明瞭な腫瘤影を来たすことがあり、免染も肉腫型中皮腫のマーカーAE1/AE3陽性なことより、まれながら限局型肉腫型中皮腫の可能性を考えて病理学的に再検討する必要性があると考えられた。
症例② 50歳 男性 呼吸困難
左下葉の薄壁空洞の低分化腺癌で切除術を受け、術後経過観察中に再発し、イレッサ治療にて間質性肺臓炎を起こしステロイドパルス療法を受けている。この際に両側に大量の胸水貯留あり、薬剤性肺障害の画像と臨床は多彩であり、胸水を来たすことは知られているが、イレッサで両側対象性に大量となるとまれと思われた。その後、両肺に斑状影、浸潤影、粒状影と左胸水が出現して、広範な転移病巣が疑われている。39度の間欠熱のコントロールできず、薬剤が原因か、focusとなる感染巣の画像等に関して討議された。画像から広範囲浸潤性肺転移患者の発熱原因を突き止めることは、極めて困難である。
大阪びまん肺疾患研究会報告
2011年2月5日(土曜)1時45分~ 薬業年金会館
5症例の興味深いびまん性肺疾患に関して討議がなされた。それぞれの症例のポイントを述べる。
症例① 78歳女性 RA:関節リュウマチの治療中 呼吸苦を主訴とし来院。胸部単純は、両側肺門側優位の陰影であり、CTでは肺門から連続する血管気管支周囲のGGOとコンソリデーションの広がりを認めた。この画像からは、以前によく使用されたリュウマチの治療薬:金製剤(シオゾール)による肺病変に一致する所見であった。(もちろんこの症例ではシオゾール使用歴はなく、アザルフィジンとハイペン内服中であるが・・)BAL液はLym40%と高く、この陰影は治療にたいし良好に反応している。画像のみからの鑑別としては、薬剤性肺炎、COP/EP/NSIPパターンであるが、PCP:ニューモシスチィス肺炎やLPD:リンパ増殖性疾患でもみられるという会場からの発言もあった。単なる薬剤性肺炎ではこの画像をあまりみることはなく、やはりRAの患者に多く、このような血管気管支周囲の気腔内線維化といわれる変化が起こりやすいと思われた。
症例② 30歳代 男性 乾性咳嗽 びまん性陰影と右下肺野の結節影を来たした興味深い症例である。日本医大武蔵小杉病院の一色先生が読影担当。骨シンチで肺野にuptakeあり、CTでも縦隔条件で観察すると、びまん性陰影の中に高濃度の点状陰影の散布あり。転移性石灰化症や肺骨化症が示唆された。肺骨化症には結節状nodural type:と樹枝状:dendriform typeがあり、前者は重症のMS:僧房弁疾患で見られたが、弁置換術により過去の疾患となっていると・・・。本例はdenndriformの肺骨化症であった。大変に興味深い点は境界明瞭な結節影が自然消退している点である。腫瘍とは考えられず肺内血腫であった可能性は高く、肺骨化を伴うことのあるEhlers-Danlos症候群が疑われると一色先生が解説した。その可能性に関し、過去に十数例のE-D症候群を集めて検討した経験のある埼玉循環器呼吸器病センター病理:河端先生より、病理学的にみても同疾患が示唆され遺伝子解析追加の必要性に関する発言があった。
症例③ 20歳代 男性 乾性咳嗽 胸膜下優位の線維化病変広がり、軽度ながら全肺野にびまん性間質影の広がりあり、画像的には非特異的であるが、家族性肺線維症、若年性肺線維症の可能性が示唆された。病変は進行性で治療に反応悪く、肺移植の適応を逃さないように今後検討する必要性が述べられた。
症例④ 私の画像司会担当症例 30歳代 男性 乾性咳嗽 易疲労感 肺野濃度のびまん性の上昇と上肺野胸膜下主体の気腫性嚢胞の広がりより、画像所見のみからもベリリウム肺等の重金属吸入による肺障害が示唆された。症例は職場でIn:インジュウム、Bi:ビスマス、Mn:マンガン等の工業材料を取り扱っている。(粉塵マスクは使用とのこと) 生検肺標本は大変に興味深く、大量のコレステロールクレストが肺間質や肺胞内にびっしりと沈着しており、In:インジュウム肺の病理所見の過去の報告例と同様の所見であった。血清のIn値も71ng/mlと著明に上昇していた。ちなみに正常値は3ng/ml以下とのこと。現在、In:インジュウムの大半はわが国で消費され、多くは液晶画面製造に使用されている。画像で類似するベリリウムは歯科領域で使用されていたが、現在わが国では厳しく規制対象とされているが、一部は安価な外国に受注しているような場合、その歯科材料内にベリリウム使用の可能性もある点に関しての発言があった。今後、忘れてはならない職業病のひとつと考えられる。
症例⑤ 60歳代 女性 発熱、喀痰 画像的にはあまり興味を持てないが臨床的にはいくつもの重要な点を示唆する症例である。画像は中葉舌区症候群とする気管支拡張症、それに散在する肺野空洞性結節の存在からは、ありふれた非結核性抗酸菌症MAC合併の中葉症候群と診断し・・!そして左上肺野に新しく出現した浸潤影は、単に細菌性肺炎の合併としてしまうが・・・? しかし、本例は抗酸菌に対する数度の検査では常に陰性、長期のマクロライド治療に反応せず増悪傾向を呈し、最終的に精査にてシェーグレン症候群と診断されら。左上肺の肺炎はノカルディアが証明されノカルディアに対する抗生剤の治療方針に関しても討議された。難治性中葉舌区症候群の原因疾患としてのシェーグレン症候群の可能性は重要と考えさせられた症例である。
帝京大学CB症例報告
1月25日18:00より 帝京大学付属病院 5階病理カンファランス室
3症例の臨床と画像、病理を中心に討議が行われた。1症例は頚部リンパ節腫瘤の原発巣不明癌、他の2症例は胸水貯留症例。
症例① 頚部に大きな腫瘤を形成し、縦隔、腹部傍大動脈周囲リンパ節にも転移巣が広がっている。この大きな頚部腫瘤は最初の他院のCTで1スライスのみであるが甲状腺皮膜が鳥の嘴状のいわゆるbeak signを呈しており、画像的に甲状腺由来で外側に大きく発育した腫瘍として矛盾しないと考えた。肝臓癌が有茎性で腹腔内に発育したり、大きな上腹部腫瘍が有茎性子宮筋腫であったりと、原発臓器から分離されているように見えることは、自験例でもまた画像のカンファランスでも時々提示されることがある。このような原発臓器の皮膜から外側に発育する症例を、初めて経験した時はとても信じられないという思いをした。本症例は、病理学的にも免染TTF-1が陽性の低分化癌で、甲状腺癌として矛盾はないと考えられた。
症例②は胸部画像は大量の胸水貯留の症例であるが、C型肝炎に合併したHCCに対して何度もRFAや肝切除等の治療が行われた既往があり、胸部CTで胸膜に接して良好に造影される(されすぎ?!)のポリープ状の小結節が多発している。胸腔鏡下の生検材料からHCCの治療後の播種の可能性に関して討議されたが、病理の免染での証明に問題が残った。
症例③大量の右側胸水症例で、胸膜肥厚と左胸膜の石灰化あり、中皮腫か非結核性の胸膜炎の鑑別が問題になった症例である。フィブリン析出著明であるがADA20.6で好中球の浸潤はなくと細菌性胸膜炎とも思えなかった。病理学的には線維形成型中皮腫の可能性も疑われたが、確定診断にはいたっていない。
今回のcancer boardでは免疫染色に臨床医があまりに期待する傾向が強すぎることに自戒するべき・・・という印象でした。自分の無知からですが、サイトケラチン:CK7とCK20の(+)、(-)の4つの組み合わせパターンによる原発巣の推定は興味深いと考えられましたが、1995年頃から盛んに行われた手法で新しい考え方ではないそうですが、原発巣を絞るひとつの良い試みではあります。しかしながら、例外となる症例も沢山ありさまざまなマーカーの組み合わせが必要なようです。次々と新しいマーカーが開発されるのは素晴らしいことですが、臨床医にとってはなかなかついてゆくのは大変です。
中皮腫の免染の主な抗体も沢山あり、いつも石綿環境暴露の被害認定委員会で聞いていて知らない間に抗体の名前は頭にこびりついて来ているのですが・・・・・なかなか全部の使い道を覚えることは困難です。中皮腫は上皮型と肉腫型によりマーカーの組み合わせも微妙にことなり、腹腔発生の中皮腫と卵巣悪性腫瘍との免染による鑑別が問題となる。また陽性マーカーだけではダメで必ず陰性マーカーも必ず組み合わせる必要性など、今後激増するであろう中皮腫のマーカーに関しては、被害申請のときには必要となるため、これからの臨床医には必須の知識である。代表的な陽性マーカーとしては上皮型中皮腫はcalretinin, CK5/6, WT-1, D2-40、肉腫型中皮腫のマーカーとしてAE1/AE3,CAM5.2を、陰性マーカーとしては肺腺癌との鑑別にCEA,TTF-1,卵巣腫瘍との鑑別にER,PgR,Moc31,BerEP-4などが代表的であろうが、中皮腫に関しては決定的なマーカーはいまだ存在しないということも知っておく必要がある。そして電子顕微鏡による中皮細胞の形態観察も反応性中皮細胞と腫瘍性中皮細胞の鑑別に極めて重要となる。また生検の組織標本がなくても、中皮腫診断を得意とする病理医や細胞診スクリーナーに依頼すれば、胸水穿刺による細胞診所見からも正確な診断可能である。
2011年1月埼玉日赤・呼吸器カンファ・レポート
新年の埼玉日赤は、恒例により私の講演を行った。テーマは昨年の放射線学会総会の研修医セミナーの「胸部画像のmimicker達」すなわちnormal variants やpseud‐lesionなど病変と間違えやすい正常範囲の所見に関する内容でお話しさせていただいた。
講演の前に、通常の症例提示・画像検討も行われた。このうちの2例を選んで、興味深い症例の画像を提示する。
症例①は脳転移で発症している。この正面写真から左肺門に重なる腫瘍の存在指摘に困難を覚える方も多いと思われるが、同時に撮影された側面像からは、境界明瞭な腫瘤影を容易に指摘ことが可能である。左上葉の肺癌とその脳転移として矛盾しないと考えられた。かくれんぼ肺癌の一例である。かくれんぼ肺癌は肺尖、肺門、心陰影、横隔膜下等に隠れ、胸部単純で黒く写るいわゆる肺野だけ観察すると見落としてしまう肺癌に関して、私が名付けました。左右の比較読影や側面像が存在診断に重要です。
症例② この症例もやはり多発性脳転移で発症している。左上葉の無気肺像伴う肺門部腫瘤をみとめ、原発性肺癌として矛盾はない所見であるが、この症例は右中肺野の巨大な腫瘤と胸椎の側彎症も伴なっている。画像診断のみならず臨床診断の基本として、「常に病気は一元的に考えろ!」といわれる。これは大切な言葉ではあるが常に正しいとはもちろん限らない。この症例はCT画像から皮膚の多発小結節と側彎胸椎の小型のmeningocele髄膜瘤認め、神経線維腫症:レックリングハウゼン病の診断が可能である。それでは右の巨大腫瘤影からは何を考える・・・?経皮生検が施行されて神経原性線維腫の診断が確定している。胸壁または肋間神経からの発生と考えられた。神経線維腫症は比較的頻度の高い遺伝性の母斑症であり、肺病変としては下肺野の線維化とともに上中肺野のブラ形成の頻度も高く、成人では約20%とする報告もある。この症例も著明な上肺野の気腫性嚢胞ブラの広がりをみた。肺癌と神経線維腫症の合併頻度は・・・?高いという報告は今まで目にしていないが、線維化や気腫性変化あれば当然、正常者と比較すれば肺癌の頻度が高くても全くおかしくはないと考える。
次回の埼玉日赤・呼吸器・カンファ2月16日19時からの予定です。興味深い画像の症例ありましたら是非、提示を御願いいたします。それでは、松島秀和先生また来月もよろしく!みな楽しみにお待ちしております。
12月帝京大学CBの症例報告
12月21日6時より開始された。次回のCBは1月25日(火)の開催に決まりました。
4例の症例検討あり。はじめの2例はCancerではないが腫瘍を疑い切除された症例が提示された。
症例1は左下肺野の腫瘤影で、incomplete border signを呈し、側面像では紡錘形で葉間裂と関連した形状を呈している。CTでは明瞭な皮膜石灰化ありVATSにて切除された。病理で胸腔内の石灰化皮膜有する結核腫と診断された。MRのリング状のエンハンス効果とdiffusion所見等からも結核腫として矛盾はしないと考えられたが、2年前に検診を受け胸部異常は指摘されておらず、経過も画像も発生部位も興味深い症例と考えられた。
症例2は検診発見の右上肺野結節で画像的にはスピクラに限局的な牽引性気管支拡張ともなう小型腺癌様の結節で、CTでは明瞭な石綿プラーク広がり石綿暴露に伴う肺癌を強く示唆された。しかし3ヶ月程後のVATS直前のCTでは、おおよそではあるが腫瘍面積で50%ほど縮小している。しかし、細胞診でも悪性所見が示唆されたため切除となった。病理では乾酪巣ともなう結核病巣であった。
症例3は中葉の典型的な腺癌様の所見であるが、TBLBでもVATS標本でも、扁平上皮癌であったが、病理の切片からpT3(pm1)N0M0と肺内転移または同時多発の可能性が示唆されたが、病理標本の切り出しとCT画像の照らし合わせから、肺内転移様に見えたのは血管気管支鞘に添って連続的に広がった部を見ているだけではないかと考えられ、病理医もそれで納得できた。
症例4は胃癌、前立腺癌のある患者で前立腺癌の広範囲の転移が見られている。胸部では小型結節影と右背側肺野に胸膜に接した腫瘤あり、この部の経皮生検所見から肺の小細胞癌の可能性が疑われたが画像と腫瘍マーカー等検査データや治療経過からもすべて前立腺癌の転移として矛盾はしないであろうという結論であった。画像的には肺血管の怒張蛇行がいくつかの腫瘤と連続して見られ血管内の腫瘍塞栓の可能性が高いと考えたが、胸部は造影CTが施行されていなくて確診には至っていない。
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